個人事業主やフリーランスの方にとって、確定申告における経費の按分は頭を悩ませる問題の一つです。特に交通費や通信費は事業用と私用の区別が曖昧になりがちで、「どこまで経費として計上できるのか」「按分比率はどう決めればいいのか」といった疑問を抱えている方も多いでしょう。
正しい按分方法を理解することで、適切な経費計上ができ、税務調査でも自信を持って説明できるようになります。
交通費・通信費の按分とは?基本を理解しよう

按分とは何か
按分とは、一つの支出を複数の用途に合理的な基準で分割することです。確定申告における按分は、事業用と私用が混在している支出を、それぞれの使用実態に応じて適切に分けることを意味します。
例えば、自宅兼事務所で使用しているスマートフォンの料金は、仕事の連絡とプライベートの利用が混在しています。この場合、実際の使用状況を基に事業用部分のみを経費として計上するために按分を行います。
なぜ按分が必要なのか
按分が必要な理由は、税法上、経費として認められるのは事業に直接関係する支出のみだからです。私用部分まで経費に含めてしまうと、過大申告となり税務調査で指摘を受ける可能性があります。
国税庁の基本通達では、「事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において債務の確定した金額のうち当該事業所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする」と明記されています。
適切な按分を行うことで、以下のメリットがあります:
- 税務調査での指摘リスクを回避できる
- 正当な節税効果を得られる
- 帳簿の透明性と信頼性が向上する
- 事業の収支管理が正確になる
確定申告における按分の重要性
按分は単なる計算作業ではなく、事業の実態を正しく反映する重要な会計処理です。特に個人事業主の場合、事業用資産と私用資産の境界が曖昧になりがちなため、明確な基準を設けて継続的に適用することが求められます。
按分比率は一度決めたら毎年同じ方法を用いることが原則です。恣意的な変更は税務署から疑問視される可能性があるため、最初に合理的な根拠に基づいて設定することが重要です。
交通費の按分 プロの考え方

交通費として認められる範囲
事業に関する交通費として確定申告で経費計上できるのは、以下のような費用です:
- 取引先への訪問にかかる電車代、バス代
- 業務用の車両に関する燃料費、高速道路料金
- 仕事関係の会議や研修への参加費用
- 事業用品の購入や資材調達のための移動費
- 営業活動に直接関係する交通費
一方で、以下は私用と判断され、経費として認められません:
- プライベートな外出や旅行の交通費
- 通勤費(雇用関係がある場合を除く)
- 家族の送迎など、事業に無関係な移動費
事業用と私用の区別方法
交通費の按分で最も重要なのは、客観的で合理的な判断基準を設けることです。税理士の実務では、以下の方法を推奨しています:
1. 目的による区別
移動の目的を明確に記録し、事業関連かどうかを判断します。曖昧なケースでは、より具体的な業務内容まで記載することが重要です。
2. 時間による区別
営業時間内の移動は事業用、それ以外は私用という時間基準も有効です。ただし、事業の性質によって柔軟に適用する必要があります。
3. 距離・頻度による区別
定期的な業務ルートと不定期な私用での利用を分けて記録します。
按分比率の決め方(具体例:車の場合、公共交通機関の場合)
按分比率の算定には、使用実態に基づく合理的な根拠が必要です。以下に具体的な計算方法を示します:
車両の場合の按分例:
- 年間走行距離:20,000km
- 事業用走行距離:12,000km
- 按分比率:12,000km ÷ 20,000km = 60%
- 年間車両関連費用:300,000円
- 経費計上額:300,000円 × 60% = 180,000円
公共交通機関の場合:
定期券を事業用と私用で併用している場合、使用回数や使用日数で按分します。例えば、月20日の営業日のうち15日を事業用で使用している場合、按分比率は75%となります。
ガソリン代の按分:
車両の走行距離按分と同じ比率を適用するのが一般的です。ただし、事業用の移動が高速道路中心で燃費が良い場合など、特殊事情がある場合は別途考慮が必要です。
記録の残し方と証拠書類
按分の根拠となる記録は、税務調査で最も重要な資料となります。以下の書類を整備しておきましょう:
- 走行記録簿:日付、出発地、到着地、走行距離、目的を記載
- 燃料費のレシート:給油日、給油量、金額を保管
- 駐車料金の領収書:事業用駐車の証明として
- 高速道路料金のレシート:ETC明細も含む
- 公共交通機関の領収書:ICカード履歴も有効
記録は継続的に行い、年度末にまとめて計算するのではなく、月次での集計を推奨します。これにより記録漏れを防ぎ、正確な按分計算が可能になります。
通信費の按分 プロの考え方

通信費として認められる範囲
事業用の通信費として確定申告で経費計上できる主な項目は以下の通りです:
- 事業用携帯電話・スマートフォンの基本料金、通話料
- 事業用インターネット回線の利用料
- 事業用FAXの利用料
- 郵便料金(事業関連の郵送費)
- 事業用クラウドサービスの利用料
スマホ・インターネット代の按分方法
スマートフォンとインターネット代は、個人事業主にとって最も按分の機会が多い通信費です。適切な按分のためには、使用実態の把握が欠かせません。
スマートフォンの按分方法:
1. 通話時間による按分
月の総通話時間に占める事業用通話の割合で計算します。通話履歴から事業用の通話時間を集計し、全体に対する比率を求めます。
2. 使用時間による按分
1日の使用時間のうち、事業用として使用する時間の割合で按分します。例:1日12時間使用のうち8時間が事業用の場合、按分比率は約67%
インターネット代の按分:
自宅兼事務所の場合、事業での利用時間や利用目的に基づいて按分します。在宅ワーク中心の事業であれば、平日日中の利用は事業用として計算できます。
按分比率の合理的な算定方法(使用時間、使用頻度など)
通信費の按分比率算定で税理士が実際に用いている方法をご紹介します:
使用時間ベースの計算例:
- 平日(22日):1日8時間 × 22日 = 176時間(事業用)
- 休日(8日):1日2時間 × 8日 = 16時間(事業用)
- 月間事業用時間:192時間
- 月間総使用時間:300時間と仮定
- 按分比率:192時間 ÷ 300時間 = 64%
使用頻度ベースの計算:
通話回数やメール送信数で按分する方法もあります。事業関連の連絡が全体の70%を占める場合、按分比率を70%とする考え方です。
データ使用量による按分:
スマートフォンのデータ使用量を確認し、事業用アプリや業務関連サイトの利用分を算定する方法もあります。
よくある間違いと注意点
通信費の按分で個人事業主が陥りやすい間違いと対策をお伝えします:
間違い1:100%経費計上
プライベート利用がある通信機器を100%事業用として計上するのは適切ではありません。必ず使用実態に基づいた按分を行いましょう。
間違い2:根拠のない按分比率
「なんとなく半分くらい」といった曖昧な根拠での按分は税務調査で問題となります。客観的で継続的な記録に基づいた比率設定が必要です。
間違い3:年度途中での恣意的な比率変更
事業の実態に大きな変化がない限り、年度途中での按分比率変更は避けるべきです。
注意点:家族名義の契約
家族名義の通信契約を事業用として按分する場合は、実際の使用者と支払者の関係を明確にし、適切な処理を行う必要があります。
按分計算の実践と確定申告での記載方法

按分計算の具体例
実際の按分計算を、具体的な数値例で解説します。個人事業主のAさんのケースを見てみましょう:
Aさんの年間通信費:
- スマートフォン代:年額96,000円
- インターネット代:年額60,000円
- 総通信費:156,000円
按分計算:
- スマートフォン:事業用比率70% → 96,000円 × 70% = 67,200円
- インターネット:事業用比率60% → 60,000円 × 60% = 36,000円
- 経費計上可能額:103,200円
このように、それぞれの通信手段ごとに使用実態に応じた按分比率を適用することが重要です。
確定申告書への記入方法
確定申告書類での記載方法について説明します:
青色申告決算書の場合:
「通信費」の項目に按分後の金額を記載します。内訳として「携帯電話代 67,200円、インターネット代 36,000円」といった詳細を別途記録しておきます。
白色申告の場合:
収支内訳書の「通信費」欄に按分後の合計額を記載します。
記帳における注意点:
- 按分計算の根拠資料を保管する
- 按分比率の算定方法を文書化しておく
- 毎月の支払い時に按分処理を行う
- 年末に按分比率の見直しを検討する
税務調査で指摘されないためのポイント
税務調査では按分の合理性が厳しくチェックされます。以下のポイントを押さえて適切な準備をしましょう:
1. 按分根拠の明文化
按分比率をどのような方法で算定したかを文書として残しておきます。計算式と根拠データを整理し、第三者が見ても理解できるようにします。
2. 継続適用の原則
一度決めた按分方法は継続して適用します。変更する場合は合理的な理由と変更時期を明確にします。
3. 証拠書類の整備
通話履歴、使用時間の記録、業務日誌など、按分比率の根拠となる資料を整備します。
4. 合理的な按分比率の設定
極端に高い按分比率(90%以上など)は特に注意深く根拠を用意する必要があります。事業の性質と照らして合理的な範囲内で設定しましょう。
まとめ・今すぐ始めるべき行動

交通費・通信費の適切な按分は、正確な確定申告の基礎となる重要な作業です。この記事でお伝えした内容をまとめると:
- 按分は事業用と私用を合理的な基準で分割する会計処理
- 客観的で継続的な記録に基づいた按分比率の設定が必要
- 交通費は走行距離や使用頻度、通信費は使用時間や通話時間で按分
- 適切な証拠書類の整備が税務調査対策として重要
今日から始めるべき具体的なアクション:
- 使用実態の記録を開始する – 走行記録簿や通話履歴の保管
- 按分比率を合理的根拠で設定する – 曖昧な推測ではなく数値データに基づく
- 月次での按分計算を習慣化する – 年末まとめてではなく継続的に
- 専門家への相談を検討する – 複雑なケースは税理士に相談
適切な按分処理により、合法的な節税効果を得ながら、税務調査でも自信を持って対応できるようになります。まずは今月分の記録から始めてみましょう。

