経理業務の外注を検討する際、「経理代行」と「税理士」のどちらに依頼すべきか迷う事業主は少なくありません。両者には法的な業務範囲の違いがあり、料金体系や提供価値も大きく異なります。本記事では、税理士法に基づく独占業務の違いから具体的な費用感まで、適切な選択をするための情報を詳しく解説します。
1.結論—違いは「独占業務の有無」
経理代行と税理士の最大の違いは、税理士法で定められた独占業務を行えるかどうかです。
主要な違い:
- 経理代行:帳簿作成や入力作業など、事実の記録に限定
- 税理士:税務相談・申告書作成・税務代理など法的判断が必要な業務
- 資格要件:経理代行は無資格でも可能、税理士は国家資格が必須
- 責任範囲:経理代行は作業代行、税理士は法的責任を伴う専門判断
業務項目 | 経理代行 | 税理士 |
---|---|---|
証憑整理・仕訳入力 | ○ | ○ |
月次試算表・レポート | ○ | ○ |
会計ソフト初期設定 | ○ | ○ |
年末調整・法定調書 | △(計算のみ) | ○ |
決算書・申告書作成 | × | ○ |
税務調査対応・代理 | × | ○ |
個別の税務相談 | × | ○ |
2.税理士の独占業務(税務代理・税務書類の作成・税務相談)をやさしく整理
税理士法第2条により、以下の3つの業務は税理士のみが行える独占業務とされています。
1. 税務代理
納税者に代わって税務署へ申告・申請・請求などを行う業務です。具体的には税務調査の立ち会い、不服申立ての代理、電子申告(e-Tax)の代行などが含まれます。
2. 税務書類の作成
税務署に提出する正式な申告書類を他人の代理で作成する業務です。確定申告書、法人税申告書、消費税計算書、青色申告承認申請書などが該当します。なお、納税者本人が自分の申告書を作成することは当然可能で、会計ソフトを使って個人でも作成できます。
3. 税務相談
個別具体的な税額計算や節税対策に関する助言を行う業務です。所得税・相続税の相談、法人の納税額計算、各種控除の確認などが含まれます。
重要な注意点:
- これらの業務を無資格者が行うと、無償でも税理士法違反(2年以下の懲役または100万円以下の罰金)
- 一般的な税法の説明は問題ありませんが、個別の状況への助言は税務相談に該当
- 依頼者も誤った申告により追徴課税や延滞税のリスクを負う可能性があります
3.記帳代行の業務範囲(強みと限界)
記帳代行は、日々の取引を帳簿に記録する作業を専門に行うサービスです。
記帳代行の具体的な業務フロー:
- 資料の受領:領収書、請求書、通帳明細などの証憑書類
- 起票・入力作業:会計伝票の作成、会計ソフトへの仕訳入力
- 帳簿作成:仕訳帳、総勘定元帳、月次試算表の作成
- 納品・報告:完成した試算表や収支レポートの提出
サービスの種類別業務範囲:
- 記帳入力サポート:基本的な入力作業のみ(最安価格帯)
- 記帳丸ごと代行:入力・試算表作成・内訳報告・ファイリング
- 経理丸ごと代行:上記に加え請求書発行・入金管理・振込代行
記帳代行の強み:
- コストパフォーマンスが高い(月額5,000円〜30,000円程度)
- 作業効率に特化したスピーディーな処理
- クラウド会計ソフトとの連携による自動化
記帳代行の限界:
- 税務相談や申告書作成は法的に不可能
- 経営判断に関わるアドバイスは提供できない
- 税務調査対応や節税提案は専門外
4.費用感と使い分け(①代行のみ/②代行+決算だけ税理士/③顧問税理士+代行)
経理業務の外注には、主に3つのパターンがあります。
依頼先 | 月額料金の目安 | 決算申告料 | 年間総コスト例 |
---|---|---|---|
フリーランス | 5,000円〜15,000円 | 別途15〜25万円 | 21〜43万円 |
記帳代行会社 | 10,000円〜30,000円 | 別途15〜25万円 | 27〜61万円 |
税理士事務所 | 30,000円〜50,000円 | 月額料金に含む | 36〜60万円 |
①記帳代行のみ利用
月次の帳簿作成は代行業者に依頼し、決算申告は別途税理士にスポット依頼するパターン。コスト重視の小規模事業者に適していますが、年間総コストでは税理士一括依頼と差が少ない場合もあります。
②記帳代行+決算のみ税理士
最も一般的な分業モデル。記帳業務の効率化とコスト削減を図りつつ、法的な申告業務は専門家に依頼。クラウド会計ソフトを活用する事業者に人気のパターンです。
③税理士顧問+記帳代行
税理士との顧問契約を維持しつつ、記帳作業のみを代行業者に外注。税務相談や経営アドバイスを重視する成長企業に適したパターンです。
5.ケース別—どちらに相談?早見表
相談内容・状況 | 経理代行 | 税理士 |
---|---|---|
領収書の整理・入力を依頼したい | ○ | ○ |
月次の試算表を作成してほしい | ○ | ○ |
「この経費は計上できる?」と相談したい | × | ○ |
確定申告書を作成・提出してほしい | × | ○ |
節税対策について相談したい | × | ○ |
税務署からの問い合わせに対応したい | × | ○ |
とにかく安く済ませたい | ○ | △ |
経営の相談もしたい | × | ○ |
6.導入・運用のチェックリスト(5項目)
経理代行や税理士への依頼を検討する際の確認ポイントです。
- 業務範囲の明確化
- どこまでを外注し、どこまでを内製するか明確に決める
- 税務相談が必要かどうかを事前に整理する
- 年間総コストの試算
- 月額料金だけでなく決算申告料も含めて比較検討する
- 現在の経理にかかるコスト(人件費・時間コスト)と比較する
- セキュリティ・管理体制の確認
- 財務データの取り扱い方法と秘密保持体制
- クラウド会計ソフトへの対応状況
- 継続性・品質保証の確認
- 担当者の変更リスクと引き継ぎ体制
- 品質チェック体制と修正対応の仕組み
- 税理士関与の有無
- 記帳代行業者に税理士が関与しているかの確認
- 法的トラブル時のサポート体制
7.FAQ
Q1: 記帳代行に依頼すれば税理士は不要ですか?
A:
記帳代行だけでは確定申告や法人税申告の代理作成はできません。ただし、ご自身で会計ソフトを使って申告書を作成・提出することは可能です。税理士への依頼が必須となるのは「代理作成・代理提出を希望する場合」や「税務相談・節税アドバイスが必要な場合」です。
Q2: フリーランスの記帳代行は安いですが、リスクはありますか?
A:
フリーランスは最も安価ですが、品質のばらつき、急な業務停止リスク、情報管理体制の脆弱性があります。また、税務に関する相談をされても法的に対応できないため、依頼者側で適切な線引きを行う必要があります。
Q3: 税理士に一括で依頼する方が結果的に安くなることはありますか?
A:
はい、あります。記帳代行(年間18万円)+決算申告料(20万円)で年間38万円かかる場合、税理士顧問契約(年間36万円)の方が安くなるケースがあります。税務相談や経営アドバイスも含まれるため、総合的な価値も高くなります。
Q4: 確定申告書は自分でも作成できるのですか?
A: はい、可能です。freeeやマネーフォワードなどのクラウド会計ソフトを使えば、納税者本人が確定申告書を作成・電子申告することができます。税理士の独占業務は「他人の代理での作成・申告」であり、ご自身の申告書をご自身で作成することは何の問題もありません。ただし、複雑な税務判断や節税対策が必要な場合は専門家への相談をお勧めします。
Q5: クラウド会計ソフトがあれば経理代行は不要ですか?
A:
クラウド会計ソフトで効率化は図れますが、仕訳の判断、月次チェック、決算整理などは専門知識が必要です。自社で完結できる規模・体制であれば不要ですが、本業に集中したい場合は代行サービスの利用メリットがあります。
8.まとめ
経理代行は作業効率に特化したコスト重視の選択肢、税理士は法的責任と専門判断を伴う総合的なサポートを提供します。 記帳代行だけでは税務申告の代理作成はできませんが、ご自身で会計ソフトを使った申告書作成は可能です。税務相談や代理作成を希望する場合は税理士との連携が必要になります。 年間総コストを比較検討し、事業規模や求めるサービス範囲に応じて最適な組み合わせを選択することが重要です。
判断チェックリスト:
- □ 税務相談やアドバイスが必要か? → 必要なら税理士
- □ 年間総コスト(決算申告料含む)で比較したか?
- □ 品質・継続性・セキュリティ体制は十分か?
- □ クラウド会計ソフトとの連携は可能か?
- □ 将来の事業成長に対応できる体制か?
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断・税務相談には当たりません。具体的な申告・節税等は税理士などの有資格者へご相談ください。